(杉村裕史)
あるウェブサイトで、「フランス人とドイツ人は互いの国をどう思っているのか」というアンケート調査がありました。フランス人はドイツ人を謹厳実直だと評価し、ドイツ人はフランスをホスピタリティの国だと評価しているという結果が紹介されていました。日本人がフランス人に持っているイメージとはおそらく違うだろう興味深い結果が出たのではないでしょうか。
とびっきり面白い個人体験を一つお話ししましょう。かれこれ20年以上も前、パリでレンタカーを借りて、友人たちとノルマンディーの小さな村にある「りんごの礼拝堂」を訪ねた時のことです。イングランド王ウィリアムの生まれ故郷であるファレーズの、とある小さなホテルのご主人と話していた時に、黄色いミシュラン地図を見せながら「明日は車でモン・サン・ミシェルまで行きたいんですけど、どのルートを通ればボカージュ(植え込みに囲まれた田園の風景)を楽しめますか、またその後さらにブルターニュまで行きたいんです、どのルートがおすすめですか?」とたずねると、たまたまブルターニュ出身であったご主人のミッシェルは身を乗り出し、突然「面白い、よし、ボカージュを見せてやるから30分後にホテルの裏門に来い」というのです。車で近くの丘の上にある民間原っぱ飛行場に行き、格納庫から古ぼけた自家用のセスナ機を引っ張り出してプロペラを二人で回し、40分あまりのノルマンディ遊覧飛行に連れて行ってくれたのです。ノルマンディーの澄み切った大空から、ボカージュはもちろん、貴族の城館、馬牧場、広大な石切場、英仏海峡、なんと翌日訪れる予定の「リンゴの礼拝堂」も空から接近して見せてもらい、感動で涙が出そうになました。ミッシェルの心を何が動かしたのかは知るよしもありませんが、もしかすると、僕が、ミッシェルの生まれ故郷ブルターニュに強い好奇心を持っていることがきっかけになったのかもしれません。たまたまホテルに泊まりにきただけの日本人にこれほどまでのホスピタリティーを見せてくれたことはそうあることではないでしょう。フランス人って時々すごいんです。旅は、このような出会いや優しい言葉で出会える特権的な時間です。
フランス人は初対面の時はそっけないし、なんだか難しいそうな印象を持つこともありますが、一度親しみを感じてくれると、想像もつかない優しさや思いやりを見せてくれることがあり、なるほどフランスってホスピタリティーの国だなと感じます。
外国語を学ぶことは、言葉や文法や会話表現の面白さを知ることだけではありません。初めて外国語に触れて、それをきっかけに、人と出会い、自分から心を開き、互いに心を通わせ合うコミュニケーションの能力を身につけることにつながるのです。フランス人から何を聞き出し、どのように自分を表現できるのかの訓練をしておくことも大切ですね。もちろんさまざまなフランス文化に触れておくことも忘れないでください。フランス人も私たちに出会うと興味を持ってくれます。コロナ禍が過ぎ去り、フランスでフランス人と心の交流ができるように、言葉の力や文化力を鍛えてください。
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