(学生T.M.)外国語研修活動報告から転載
私にとってこのフランス研修は、大変有意義で学びの多いものでした。実際に2週間という短くない期間を過ごすことで現地の細かな文化・慣習まで知り学び、私自身も体験することができました。
まず、ヨーロッパに渡航すること自体が今回で初めてでしたので初日から最終日まで実に刺激的な毎日だったわけですが、やはり一番大きく取り上げたいのはフランス人の穏やかさについてです。私はこれまでフランスと言えば革命やストライキが真っ先に思い浮かび、いくぶん忙しない人が多いのかと想像していましたが、実際はそうではありませんでした。アムステルダムのスキポール空港での乗り換えでボルドー行きの小型飛行機に乗り込んだ際、それまでのガヤガヤとした国際便の様子とは一変としたあの穏やかな空間には驚かされました。もうすぐ後ろや隣からフランス語が聞こえてきて現地に着くまでもなく、フランスに来たのだと実感したのを覚えています。
フランス人の穏やかさや優しさを感じた場面はそれからいくつもありました。車の走るスピードがゆっくりで、信号が無い交差点で巧みに譲り合いをしている場面、それから驚いたことに歩行者は信号が赤でも横断歩道を渡るのが一般的なのですが、それでも交通事故が一切起こらないのです。フランス人の心の余裕というものを毎朝歩いて語学学校に向かうときに感じていました。また、これは穏やかさを表すものでありながら礼儀正しさを表すものでもありますが、フランス人はたくさん挨拶をするのです。家族はもちろん、入ったお店の店員さんにも必ず挨拶をします。まず店に入ったときは《Bonjour》(こんにちは)。店から出るときはたとえ何も買わなくても《Merci. Au revoir》(ありがとう、さようなら)などと言います。店員さんも目を見て必ず返してくれます。私はこの文化が本当に好きでした。この些細なコミュニケーションを取るだけでとても気分が良くなるので、日本に帰ってからも是非この精神を続けたいと考えています。それからもう一つ、これは路面電車に乗っている最中起こったことですが、サンテミリオンへの遠足の日、私たちは学生5人だけでトラムという路面電車を乗り継いで先生との待ち合わせ場所に行かなければなりませんでした。しかし、街の綺麗さに気を取られ降りなければならない駅を通過し、その2駅先で学生の1人がやっと気が付いたということがありました。その学生が近くの人に話しかけてみると、「その駅はもう過ぎているよ。次降りたら大丈夫。」と、また違う場所にいたマダムも、「次降りたら反対側の停留所に行くだけで良いからね。」と親切に話しかけてくれたのです。正直、アジア人という特徴が異国の地において大きな否定的要素になるのでは無いかと少なからず思っていました。ですから、公共の場でボルドーの人々に優しくしていただいて心から嬉しかったのを覚えています。また、私だったら日本でこれができるのかと省みても、おそらく勇気が出ず話しかけられなかったでしょう。ボルドーの人々と私で何が違うのかそれから深く考えるようになりました。
ある夜のディナー中、ホストマザーとホストファザーと日本とフランスの働き方の違いについて話しました。日本にはいわゆるバカンスが無い、だから大学時代は人生の夏休みと言われているのだと話すと2人はとても驚いていました。そして、私たちはシニアだからだけれど1年の3分の1がバカンスなのだと教えてくれました。それから語学学校の先生によると、ボルドーだと毎週水曜日は学校が休みなので子どもを見るために親も休んでいる人が多いようなのですが、確かに水曜日は昼から外でお酒を楽しんでいる人が多くて休日と変わらない雰囲気なのです。その代わり、日曜日はキリスト教の影響でほとんどのお店が閉まっており、トラムも少ない本数で運行しています。また、理由は把握することができませんでしたが、月曜日の朝は心なしか車の数が少なく静けさがあります。私はここにフランス人の心の余裕に関する疑問に1つの答えを見つけたように感じました。確実に日本人の労働時間よりもフランス人の方が少ないのです。また、私のホストファミリーは誰が帰ってきたのか姿が見えなくてもすぐに分かるくらい皆歌っていて、家庭内も穏やかであるように感じました。
フランス滞在中、穏やかでないと感じたことももちろんありました。私たちが訪仏している間はちょうどタクシーのストライキが起こっていましたので、授業中に爆竹の爆発音がすぐ近くで聞こえたり、パトカーのサイレンが何度も聞こえたりするということがありました。またタクシーの立ち往生でトラムが動かないこともありました。日本とは全く違った風景に驚き、怖さを感じたりもしましたのでこのような形を肯定するのは難しいですが、まず声を上げて意思表示をすることが大切なのだと思いました。この場面もそうですし、またフランス人学生たちと交流した際にもフランス人の政治に対する関心の高さを感じました。
フランス人学生たちとは何度も共に外出し、大変仲を深めることができました。彼らにおすすめのお店を教えてもらったり、話し言葉や現地の若者言葉を教えてもらったりしたことは私のフランス語力を大いに向上させました。家に帰って、ホストマザーに「フランスに来た時から随分フランス語が上達したね」と言われた時はとても嬉しかったです。私にとってフランス語は大学1年生の時に何気なく選択した第2外国語でしたが、この研修を経て私の中で存在の大きなものになりました。フランス語学習により力を入れて自身の一つの武器にできたらと考えています。
また、私はフランス人学生たちからフランス人のある精神を学びました。金曜日に学校の先生とフランス人学生たちと一緒にアルカッションという場所まで遠足をする予定だったのですが、乗る予定だったトラン(新幹線と電車の中間のような乗り物)が停電で全て止まってしまい、行き先を変更せざるを得なくなりました。皆大変落胆していたのですが、フランス人学生の方が立ち直るのがやけに早いのです。「フランスにようこそ」、《C’est la vie》(これが人生)と彼らは言っていました。この時だけでなく、不条理なことが起こるといつもこのフレーズを口にしていたのを覚えています。フランス人のこの受け入れの早さには感服しました。日本はフランスよりも電車やバスがいつも時間通りであったり、自動販売機の性能が良かったりして大変便利ですが、稀に不具合が起こるとその分不平不満が多く聞こえる印象でしたし、私自身もその傾向にありました。ですがこの時、このフランス人の精神がまた1つ気持ちを穏やかにするものなのだと気が付き、私もC’est la vieと言ってみることにしました。そして、日本に帰ってもこの学びを忘れないでいようと心に決めました。
この2週間のフランス研修で、私はフランスの歴史を学び、食文化や生活習慣を直に触れました。滞在したボルドーという街はほとんどの建築物が200年前のもので歴史的な街並みが広がっており、散策すると黒人奴隷を使った三角貿易で栄えた街であったというのが未だに分かるものがいくつかありました。現地でしか見られないものを数多く目の当たりにし、学びを深められたのは実に有意義であったと感じます。この学びを今後の大学生活、そしてその後の事にも繋げたいと考えています。
Marche des Capucins を訪れた様子
イタリアの野菜、アーティショー
食べられる部分がごくわずかですが味がとても良く気に入りました。個人的にアボカドに似たものを感じました。
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